金曜・・・
病院から電話があった。
父の病状が、昨日より悪くなっている。
家族が集まってほしい、という内容の電話。
病院へ駆け付けた。
昨日より、苦しそうだった。
寝たきりで、喋れず、目が開けられない状態。
機械で計る何かが、70台に低下していた。
昨日は、80台を推移してきたが、今日は70台に低下。
苦しそうな時は、55まで低下し、楽になる薬を点滴で入れ始めた。
楽になる薬を少量ずつ、今日から始めることになった。
モルヒネという薬を、ネットで調べると、医療の現場では肯定的に扱われているようだ。
最終手段、というイメージだったが、よーーーくネットの文章を読むと、段階的な方法であって、これが最後というわけでもないらしい。
楽になる薬を始めて、55まで低下した何かが、70台まで回復して、父の目が開いた。
この数字は、低下すると良くないらしい。
100であれば家に帰ることができる。
今月の初めは90台で、喋る事ができた。
日を経つにつれて、80台に低下し、70台に落ちると看護婦が病室に来る。
それが今日、ずっと70台前半で、時折、55まで下がる。
苦しそうだった。
父は、喋ることができない状態になった。
仕事の話もできない。
氷、とか、ウェットティッシュ、とか、いま欲しいものを声に出すくらい。
父は、喋ることができないが、機械の数字を見ようとして、何度も重い手をあげる。
私がいても、今日は父と会話できなかった。
私の方も、喋られなかった。
私が黙って座っている間、少し薬の量を増やしますねーーー、と看護婦が入ってきて、モルヒネの点滴を操作する。
昨日より悪化したことは、私の目でも分かる。
このまま悪化すれば、何かあっても不思議ではない。
医者が言うには、今日、または、明日。
しかし私は、治療を続けるよう主張した。
ずっと治療を続けろよ、と医者に何度も言ってきた。
医者の口車に乗せられるな、と私は母にしつこく言っている。
それくらい私は、医者を疑っている。
なにか他に、良い薬があるけれども、その薬は高額だから、医療費抑制の圧力をうける病院側が使っていないのではないか、と疑いを持つ。
あるいは、新型コロナの感染拡大を背景に、病院側が病床のスペースを確保すべく、既存の患者を追い出そうとしているのではないか、と疑い続けている。
医者がよからぬことをしたり、母が医者の説得を受け入れたりして、最後の方法をとるのではないかと心配だから、ずっと私は病院にいたかった。
しかし新型コロナによる影響で、見舞いの時間制限と人数制限があり、私が追い出された。
病院を出た後、父の仕事の書類を届けるべく、某所に行った。
某所にいくと、1階がショールームのようになっており、受付で父の書類を渡してきた。
その時、父の作った模型が飾ってあることに、初めて気づいた。
いままで気づかなかったのだが、父の作品の写真や模型が、依頼主のショールームに飾ってあったのである。
父の作った模型が、やや変色して色あせ、少しホコリを被っており、長いこと飾ってくれてるんだな、とボロボロ泣けてくる。
こんなお店の目立つところに、何個も模型を展示してくれていて、ほんとに父は、いい仕事をしてきたんだなと、しみじみ泣いた。
いままで全然、気づかなかった。
木製の床や、おしゃれな照明や、受付嬢に目が行き、肝心の作品まで視界に入らなかった。
私が通ってきた、この横の壁に飾ってくれていたとは。